天敵研究の魅力
「天敵」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? 人間の日常生活では、苦手な人・嫌な人を指すことが多いと思います。農業害虫の防除の世界では、害虫を殺す虫や病原菌を「天敵」と言います。生物学的には、捕食性天敵・捕食寄生性天敵・病原体になります。
農業は食料生産のためにあります。増え続ける世界人口を支えるには、生産量を増やさねばなりません。また、先進国では、高品質や安全・安心な農産物も求められています。しかし、農作物は常に害虫・病気・雑草などに侵され減収の危険にさらされています。生産者は、そのため、化学合成農薬によってそれらを防除しています。化学合成農薬を用いない場合、農作物の収量は3-9割も減るという調査報告もあります。
しかし、害虫も進化します。農薬に対する抵抗性を発達させて、新たに開発される殺虫剤に対しても次々と抵抗性を発達させて、防除が困難になってきています。また、ミツバチやマルハナバチなどの受粉昆虫の利用も、殺虫剤の利用を躊躇する要因です。そしてなによりも、暑い真夏のハウスの中で、カッパを着て完全武装で農薬散布する重労働は、農家にとって大きな負担です。このため、化学合成農薬以外の手段も適切に組み合わせて病害虫を防除する 総合的病害虫・雑草管理(Integrated Pest Management:IPM) の実践が求められています。その主役と目されているのが天敵です。
ビニルハウスなどの施設栽培では、主要な害虫に対する天敵昆虫・ダニ類が市販され、天敵資材のレパートリーが揃ってきました。しかし、どんなタイミングで利用するればよいのか、どんな環境でパフォーマンスが良い/悪いのか、複数の害虫に対応するにはどうしたらよいのか、まだまだ不明な点があります。これらを解明して、より良い利用法を提唱するのが私達の役目です。
また、野外の露地栽培では、気象に左右されるため、さらに複雑です。商業的に入手できる天敵資材の利用は限られます。しかし、野外には土着天敵と呼ばれる天敵の野外個体群がいます。これらを有効に活用するため、天敵温存植物を用いた保護・強化をはかる取り組みが進められています。科学的に実証するには、天敵がいつ・どこから来るか、何を食べているか、知る必要があります。そのためには、個体レベルの行動解析から、ランドスケープレベルの多様性研究までが求められています。
本研究分野でも、これらの課題は着手したばかりです。みなさんも、一緒にこれらの課題に取り組みませんか?